コラム 「ブラジルとチェコを倒した男」-サッカー元日本代表田中誠が8時間の手術
完敗は、なぜかいつでも「雨の中」である。5日、世界3位のオランダに0-3で完敗した日本代表戦を見ながら、95年、代表初の欧州遠征で、W杯を制したブラジルに0-3と完敗した試合、そして01年、98年W杯の覇者フランスにサンドニで0-5と叩きのめされた2試合を思い出した。ともに大雨の中、ピッチ状況が悪化していく困難なゲームだったが、世界王者はともにミスもせずにパスをつなぎ、まるで日本とは違うピッチで戦っているような気持ちにさせられた衝撃は、今でも忘れられない。
こうした過去の惨敗から代表は進化し、洗練もされたはずだ。オランダ戦のピッチは悪くはないし、「衝撃の」と敗戦を形容する時代でももはやないけれど、この試合もまた、後半、特に雨足が激しくなった時間帯に3点を失ってしまった。
世界ランカーとの試合で浮き彫りになるのは、個々のテクニック、FKがどうだ、とか、見せ場があった、とか、体力、戦術といった表面的なことではなく、もっと、もっと奥底に潜む「差」なのだろう。
逆に、日本が世界ランカーを倒した2試合について考えたのは、両試合でピッチに立っていた選手の大怪我について聞いたからだ。96年アトランタ五輪での「マイアミの奇跡」でブラジルを破った試合も、04年、当時世界ランク9位のチェコをプラハで倒したときにも、今季からJ2福岡に移籍した田中誠が日本のDFラインで踏ん張っていた。
先月末、湘南との試合中、味方GKと激突して、両ホホ、上あご、鼻骨、目の奥を骨折、前歯数本を失う重傷を負い、スタジアムから救急病院に運ばれたという。先日、クラブから発表されたリリースには「無事終了いたしました」としか記されなかったが、4日の手術は実に8時間も要する難しいもので、家族、所属するマネージメント会社のスタッフらが一日中、病院で田中の容態を見守るほどだった。
引退した中田英寿もチェコ戦には招集されていたが、怪我のためにピッチには立てなかっただけに、五輪とフル代表の両試合で、世界王者と、欧州選手権の優勝候補にあげられたチームを破る経験を持ったディフェンダーは、日本代表の宝でもあるし、自身にとっても特別な輝きを放つキャリアではないだろうか。
田中は、いつも冷静で気負うことのないクレバーな選手だ。チェコ戦後「普段やっていないことは強豪に通用しないし、普段きちんとやっていれば強豪相手でも何も変わりません」と答えたコメントが、今も当時の取材メモに残っている。
あごが砕けたために会話もできず、食事も取れないために点滴で栄養補給を続ける中、代表で2度の大金星を手にするキャリアを持つ34歳は「復帰は?」と筆談したそうである。
(7日付け 東京中日スポーツ、セブンデイズより)





