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「キャプテン最後の旅」

6月 20 日, 2008 年, 11:15 am

サッカー日本代表アジア3次予選を取材するためバンコクに出張した。周囲には、「もったいない」と言われるが、これだけ海外に行っているというのに、空港、ホテル、スタジアムと「魔の三角地帯」を、荷物と原稿を抱えてドタバタ走り回っているからだろう、記念写真がない。しかし今回だけは、たとえ「一枚」でもいいから撮影しようと思っていた。

「3次予選突破のために勝って欲しい気持ちと、自分にとってもこれが最後なんだ、という何だか複雑な気持ちになったせいか、後頭部が痛くなった。ここで、ブチっといったらマズイな、と安定剤を飲んだんだ」

タイ戦を勝利で終えた競技場の薄暗い通路で、いつものように記者に囲まれる。6年間も全力疾走を続けた71歳の表情は、安定剤を飲んで観戦した、と明かした話とは裏腹に、穏やかに見えた。日本サッカー協会・川淵三郎キャプテンにとって、バンコク遠征が「最後のアウェー」になった。来月で任期が切れるため、現地で代表を見るのは最後になる。

持病の高血圧で、上が200に達するような試合でも、酷暑や雪でも、「代表が戦っているのだから」と、必ず外の席に座った。海外の空港から直行するのはホテルではなく、いつでも、選手、監督がいるグラウンド。記者よりも細かく練習を見て、代表を暖かく、厳しく励ました。現場取材を尊重し、どんな場所でも状況でも記者を拒否しなかった。国際サッカー連盟やアジア連盟の会議に1泊2日で飛ぶことも日常茶飯事だった。世間でいう70歳の仕事では到底なかったから、心身ともきつかったと思う。しかし元日本代表FWは、困難で意外性に満ち、時に夢にたどりつくことのできる「アウェー」という道の先頭を、トップスピードでけん引し続けた。

「一枚いいですか?」と、ラジャマンガスタジアムでカメラを向けた。キャプテンは笑ってうなずき、隣には、長い闘病生活に克ち、「最後の旅」に2年ぶりに同行された夫人が、優しい表情で寄り添っていた。慎重にシャッターを押しながら、本当にお疲れさまでした、これからアウェーが寂しくなります、とつぶやいた。

(文=増島みどり)

(東京中日スポーツ 2008.6.16付より再掲)

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