水着問題、3社が改良型を提出
日本水泳連盟が、英国スピード社の新水着「レーザーレーサー」が世界新記録を続々と更新している現状に対抗するため、国内公式メーカーであるミズノ、アシックス、デサント3社に対して再改良を、30日を期限として求めていた件で、この日、ナショナルトレーニングセンター(東京・板橋区)で3社がそれぞれ改良した水着のヒアリングを行い、新水着を提出した。
各社とも、従来のものより、「レーザーレーサー」を強く意識し、マテリアル(素材)を複合的にするなど、簡単に言えば「よりきつく締める」方向性を倣ったものとなった。3社は、これまで非常に解釈が曖昧だった水着の素材についてのルールで、「生地をつなぐ付加は問題ない」と大幅な変更が加えられた昨年11月のFINA(国際水泳連盟)の決定に出遅れたことで、スピード社水着で連続される世界新記録更新に翻弄された格好だ。
水泳連盟はその後、会見を行い、佐野専務理事は「3社のメーカーの方々に短期間で改良型、今までの性能を上回るものを出してほしいと要望したところ、非常にすばらしい成果をいただいた。よくぞここまでやっていただいたと思う」とした。
改良した3社の水着を、現在合宿中の選手たちは明日午前中まずはサンプルの触感、素材などを確認したうえで(時間がないため完成した水着が揃っていないいため)、今後の合宿、ジャパンオープン(6月6~8日、東京辰巳国際水泳場)などで「五輪代表31人に、見て、触って、着てみることで選手に確認してもらう」(上野競技委員長)と、選手の意見や感想を最大限取り入れていくことになる。
また3社以外にも、今後は初めてスピード社の「レーザーレーサー」も含めて試着し、選手が最高の着用感を認めたものについて、選択をしていく。6月10日の常務理事会で正式に着用水着が発表される。

| ■LZR(スピード)の種目別世界新記録 (長水路は50m、短水路は25mプール)( )内は女子選手の記録 |
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長水路
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短水路
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| 自由形 |
6(3)
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1(1)
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| 平泳ぎ |
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(1)
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| バタフライ |
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(2)
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| 背泳ぎ |
1(5)
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1(5)
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| 個人メドレー |
(1)
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3(2)
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| リレー |
(1)
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1(3)
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| ● 国別 | ||
| オーストラリア | …… 10 | |
| フランス | …… 3 | |
| オランダ | …… 5 | |
| アメリカ | …… 8 | |
| ジンバブエ | …… 4 | |
| クロアチア | …… 2 | |
| オーストリア | …… 1 | |
| イギリス | …… 1 | |
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(ザ・スタジアム調べ |
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| 【改良水着の要旨ポイント】 | |
| ■ミズノ | 今回もっとも多くの選手が着用を予定している。「これまで締め付けの厳しい水着は選手の評価が低かった」とむしろ着心地の良さを追求してきた。しかし今回 はこの従来の発想を変え、伸びにくい素材で胴体や脚を締め付け、水の抵抗を受けにくい体形や姿勢を保つ機能を加えた。山本化学工業の素材は、「当社品と比 べて大きな差異はない」と測定結果から採用していない。全素材は、東レとの共同開発。 |
| ■アシックス | 特に脚を締め付ける。従来品同様、骨盤を安定させるベルトのような機能を水着に入れる特徴は生かした。その上で日本選手権レベルの選手にタイム計測をし、 「100メートル自由形で0.5秒のタイム向上の可能性を確認した」と、開発担当者が説明した。アシックスは素材の一部に山本化学工業の素材を使用した。 |
| ■デサント | この日3種類の水着を提出。アリーナ(イタリア社のブランド)が手掛けた短距離モデルはポリウレタン表面に縫い目のない仕上げをすることで、スピード社に近い発想。欧州メーカーとしてのライバル意識のためか。素材の一部には、山本化学工業の素材を使用している。 |
「北島は、どちらを着るか」
「レーザー・レーサー」の世界記録の内訳を調べてみた。データの不正確さもあるかもしれないが、自由形は男子6と背泳ぎ女子で5と突出した種目での記録更新が目立ち、平泳ぎとバタフライには更新記録は少ないことがわかる。おそらく、水着の持つ得意、不得意の特徴を示すものだろう。バタフライや平泳ぎのよう に「引き」が入る種目と大きく成果が分かれている。
ミズノの会見の最中、同席していた同社の上治専務理事が「昨年11月のFINA(国際水連)のアプルーバル(承認事項、一部ルール変更)に対して、私たちは拡大解釈をせずにきたためにこういうことになったと思っている」と話した。日本の発想の転換が遅れていた、とする自省が、おそらく今回の騒動の根本的問題として取り上げられる。締め付けが強く着用に20分以上かかるレーザー・レーサー(LR)は、極細のナイロン製生地に、胸部や臀部のような凹凸がある部位にポリウレタンのフィルムが「張られて」いる。無縫製、超軽量といった特徴もあるが、米航空宇宙局(NASA)が協力提供したというこのフィルムこそが、速さの秘密だ。
FINAは従来、水着表面の加工を制限、特に「特異な形状や構造を作らないこと」を求めてきており、異素材を貼り付ける付加物は認められない。日本のメーカーは、凹凸のある部位を矯正し、抵抗を減らすために表面に別の素材を張るのは規定に反する、との解釈をしてきた。
ところが昨年11月、この「生地をつなぐ製造、付加はOK」となった。しかし、日本のメーカーだけではなく、アディダス、ナイキ、イタリアのアリーナらもこの決定の「蚊帳の外」だった。
スピードの新製品が短水路大会で好結果を連続することと、承認の絶妙なタイミングはいわば、「出来レース」ともとれる。即決、即実行の流れは、FINAに対して非常に大きな力を持つスピード社のスティービル・ルービー会長の強烈な働きかけのためだった、とされる。不幸なことに、国際水連の中に、日本の関係委員などは一人もいない。些細なルール変更、世界的なスポーツ政治の力学、これらを直接仕入れるための国際舞台に、日本水泳界は情報源を全く持っていなかったことが、まず今回の騒動の根にある。プールの中ではなく、外での敗戦を喫したことは間違いない。
3社による開発にも、せっかく日本が誇る技術力や膨大なデータを「井の中の蛙」として、大海では使用しないもののように使ってしまっているように思える。
次に、日本の競泳の急成長と大きな成果に対する欧州の対抗意識もある。かつて、冬季五輪で金メダルを奪い、世界ランキングを独占したスキーの複合競技、スキーのジャンプ、みな同じ道を通っている。今回、スピード社の水着の着用を認めるべき、との声と、選手の希望はある。しかし希望した日本選手全員に、「スピード」が支給されるだろうか。上治氏は、拡大解釈できなかった、と悔やんだが、では仮に日本が拡大解釈し、あんな水着を、先陣を切って開発していたら……当然、即刻ルール改正され潰されているに決まっていた話だ。
ミズノは今回の再改良の中で、北島とも話をしている。彼の人情に配慮したうえで「操をたてなくたっていい、これで一生が決まるかもしれない」と、レーザー・レーサーの着用を容認する姿勢を見せる。北島は答えたそうだ。
「オリンピックの金メダルを取るために何より大事なことは、自分のパフォーマンスに絶対の自信を持つことであって、水着を選ぶことではない」と断言したという。やせ我慢でも何でもなく、アテネで金メダルを2つ取った、日本が世界に誇るスイマーには、水着で補正できる「コア(核)」とはわけが違う、本当の核 (格)が体と心の中心に宿っているはずだ。
極度のストレス、プレッシャーと戦わなければいけないあの舞台で、コンディションの悪さも、過緊張や筋肉の硬直まで、NASAやスピード社が助けてくれるはずもない。北島は「ミズノ」を着用するのではないだろうか。
(取材=増島みどり 写真=The Stadium)





