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「室伏広治、今季初戦Vで日本選手権15連覇」コラム、コメント

6月 27 日, 2009 年, 7:09 pm

  「塚原は歴代4位の好記録で準決勝へ」
 
 今夏のベルリン世界陸上選考会を兼ねた日本陸上競技選手権大会(広島・ビッグアーチ)で、男子ハンマー投げの室伏広治(34=ミズノ)が5投目に73㍍26を投げて優勝し、これで15連覇の偉業を達成した。室伏は、北京五輪までの「4年間の金属疲労が予想以上だった」と、今大会に合せて練習をスタートさせたのが約1週間前とまだ十分なトレーニングは積んでいない状態だったが、1投目の71㍍33から71㍍66、72㍍06と少しずつ距離を伸ばして、4投げ目で73㍍16、5投目で73㍍26と刻みながらも尻上がりに記録を伸ばしていった。すでに世界陸上代表には内定しており、これで「アジアの鉄人」といわれた父・重信氏は日本選手権で12勝、妹で26日のハンマー投げで優勝した由佳(ミズノ)がハンマー(3回)と円盤(10回)の両種目で13勝、広治が15勝目を飾り、室伏一家として実に日本選手権40勝という、世界最強の投擲ファミリーの地位にも新たな勲章が加わった。
 男子四百㍍障害では、昨年、為末大に逆転負けを喫した成迫健児(24=ミズノ)が、序盤から飛ばす積極的なレースを見せ、最後は2位吉田和晃(順大)に迫れたが逃げ切り、49秒53で3年ぶり2度目の優勝を果たし、世界陸上代表に決定。百十㍍障害でも田野中輔(30=富士通)とともに代表入りした。

 男子棒高跳びの澤野大地(千葉陸協)は5㍍70で4年連続8回目の優勝を飾り、世界陸上代表の座も手中にした。
 女子五千メートルは、一万㍍で先頭で終始リードしながら最後は6位に終った、北京五輪女子マラソン代表の中村友梨香(23=天満屋)が、一万の悔しさをぶつけて最後まで先頭を譲らず、15分25秒31で優勝し、すでにB標準記録を突破しているため世界陸上五千メートルの代表に決まった。女子四百メートル障害では久保倉里美(27=新潟アルビレックス)が3連覇で代表に決定した。
 26日、女子二百㍍で23秒00の日本新記録をマークして勢いに乗る短距離のホープ、福島千里(21=北海道ハイテクAC)は百㍍の予選に登場、21歳の誕生日のこの日、11秒32(追い風+1・5)と予選トップ記録で楽に通過。28日の決勝で、自らが6月にマークしたばかりの日本記録11秒24の更新を狙う。
 男子百㍍でも、北京五輪の四百㍍リレー銅メダリストの塚原直貴(24=富士通)が、10秒09と日本歴代4位の好記録で28日の準決勝、決勝に向けて順調なスタートを切った。同種目では、江里口匡史が10秒14、木村慎太郎(ともに早大)も10秒21で、ともに世界選手権参加標準記録A(10秒21)をクリアし、塚原が決勝で記録を更新するか注目される。

「世界最強の投擲ファミリー」

 92年 63㍍72④
 93年 65㍍74②
 94年 64㍍10③
 95年 69㍍72①
 96年 70㍍38①
 97年 74㍍06①
 98年 76㍍67①
 99年 75㍍64①
 00年 76㍍39①
 01年 78㍍83①
 02年 79㍍15①
 03年 83㍍29①
 04年 82㍍09①
 05年 76㍍47①
 06年 80㍍17①
 07年 79㍍24① 
 08年 80㍍98①
 09年 73㍍26①

 と書けば、たったこのくらいのスペースで終ってしまう15連覇だが、これがどれほど果てしなく、重いものなのか、この日、優勝15回では3番目に悪い記録がむしろ実に雄弁に物語っているのかもしれない。振り返って欲しい、と聞くと、室伏は「そうですよねえ」と深いため息をついて、楽しそうに笑った。
 「本当に色々なことがあってここまで競技をやって来られたことが幸せです。初めて出場した高校3年の時は3位で、大学1年で2位。このまま順調に行くんだろうと思っていたら、大学2年で記録が悪くなってしまって、こんなんじゃいけない、と猛練習して何とか70㍍を投げることができて初めて優勝できた。世界に向けてのステップとなった優勝だったと思います」
 技術には安定と不安定が交互に訪れ、フィジカルコンディションには不調もあり、故障も起きる。今年のように、3度目の五輪となった北京を終えての疲労感は自身がこれまで経験した以上の重さだったという年もやってくる。この日も、腰痛と股関節の痛みといった疲労蓄積による不調から記録は低調のまま。世界陸上代表はすでに内定はしているが、今後は「治療と休養と競技をうまくバランスよくやっていくしかない」と、即ベルリンへ向けて調整するのは難しいようだ。
 初出場の63㍍から、83㍍と20メールもの距離の間に、まるで彼の競技人生の困難や喜び、全てが凝縮されて刻まれたようでもあり、「むしろこういう記録で、皆さんに、輪投げをやるように(簡単に)投げているわけではないと分かっていただけるのでは」と、1本の背景にあるトレーニングをうかがわせた。
 
自身が作成した「僕のハンマー投げ」と題したDVDがある。そこに映されているのは、メディアが一般的に報じている、室伏の投擲の様子ではない。
 「ビッグイベントで優勝を決める一投をし、ハンマーが落ちるまでしか報じられていないんですね。それは僕の日常とは全く違います」
 そんな話を聞いている。日常とは何だろう。
 ハンマーを投げる場面ではなく、投げた3本のハンマーを拾いに行く、芝や砂を踏みしめて落下地点に向う自分の足元。
 グラウンドを丁寧にならしていく「トンボ」の動き。独自の腹筋を黙々と繰り返す後ろ姿。ボロボロのグローブ。練習を終えて、泥んこのハンマーをブラシで洗いあげて、それを布で磨く手元。磨かれて光る鉄球が、丁寧に壁にかけられ、練習場の灯りが消える瞬間。何のドラマもなく、ナレーションも会話もないDVDなのに、盛り上げようとするナレーションや音楽がまったくないのに、説得力と不思議な爽快感に満ち溢れていたのは何故だったのだろう。

 「父とはまだ話していないんですよ」と、重信氏に触れて15連勝後見せた穏やかな顔も印象的だ。妹・由佳が円盤とハンマーで、父は12回と、「室伏一家」が日本選手権に刻んだ優勝がこの日40となった。すでに世界中でも稀有な家族だったが、区切りの数字は、新たな勲章でもあり、関係者も「ひとつの歴史として、こういう記録をギネスブックに申請できないだろうか」と提案、検討するという。
 「家族タイトル40なんてそれも幸せですよね。投げたくても(ハンマーができる)環境にない選手もいる中、僕は投げ放題だった」と笑った。昨年は大学院を卒業。今年は女子ハンマーの普及の先頭に立ち、東京五輪招致では理事としての顔を持つなど、世界陸上でのメダル獲得への期待のほかにも、ベルリンでの競技終了後には、国際舞台でのロビー活動へのオファーがひっきりなしに届いている。昭和45年、父重信氏が初めて優勝してから40年近く、一家が築いた投擲の歴史は、今も、これからも、伝統芸として引き継がれてゆくのだろう。有形でも無形でも、「重要文化財」である。

   「課題は後半」
〇・・昨年は為末大に逆転され優勝を逃がした成迫は、前半から積極的なレースを見せたものの、思った以上の向かい風に4台目でハードル間の歩数を修正。「そこでガクッとスピードダウンした印象でした」と、バックストレートから受けた向かい風に手こずったという。9、10台目はあやうくかかりそうになったが、最後は「(昨年のことも頭をよぎり)絶対に負けたくないという気持ちだけでゴールしました」と、最後は転倒して半身をすり向く、泥臭いゴールだった。それでも、コンディションが悪い中スピードを取り戻して走り切ったことには手ごたえを感じているようで、「世界選手権に向けて、本来は得意だったはずの後半のスピードをあげるように色々やっていきたい」と、決勝進出に改めて意欲を見せていた。
     「3本一体」
〇・・百㍍予選にも関わらず、歴代4位の好記録で準決勝に進出した塚原は、前日の二百㍍・高平慎士(富士通)の優勝(自己新)に大いに触発されたようだ。 「ホテルで見ようと思ったら、(NHKハイビジョンが)映らないんで、わざわざビッグカメラに行って決勝見たんですよ」と四百㍍リレー銅メダリストの快走を電気店で見ていた、と報道陣の笑いを誘った。
 「あれを見せられたらねえ」と、予選ながら10秒台をマークした充実ぶりを、高平の快走に重ね合せた。もっとも10秒台までは想定しなかったそうだが、世界で戦うには「三位一体ではないですが、3本一体というか、予選とか準決勝ではなくて、全てで全力の走りをしないといけない」と、準決勝、決勝への気持ちを高ぶらせていた。

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